あの時間を忘れる方法が あるなら

自分に何が出来るかと問われれば接客と柊さんのオフィスで学んだ自慢すらできない程の補佐業務のみだ

歩くたびに渡される資料を胸に抱えながら奥へと足を進めると、しっかりと前を見ていなかったせいか人にぶつかり資料を床にばら撒いてしまった

「す、すみません!!」

人がとにかく多い為慌てて資料をかき集めると
取ろうとしたチラシを誰かが拾ってくれたので顔を上げて見上げると、その人物にまた持っていた資料を落としそうになる

『どうぞ。何かお仕事をお探しですか?』

ドクン

何度もオフィスで話したはずの八雲さんから資料を受け取ると、急いで立ち上がり乱れたスーツを直す

私だって気付いていない?

八雲さんは事情は知ってる1人ではあるけれど、莉奈さんとして変装して生きていた私しか知らないはず

あの時の自分と比べたら、高価な服やアクセサリーすら身につけず品も更にない自分があの時の彼女だとは思うはずもない

「ありがとうございます。まだ何も決めてませんので失礼しま」

『それなら私共のブースにいらっしゃいませんか?』

えっ!!?

前のめりで私に近づく八雲さんに若干引きながらも後退りしたかったが、人の多さにそれが出来ず、気付けば半ば強引に奥へと誘導されてしまう

本当に八雲さんってば私って気付かずこんな事をしてる!?

社長にも強気で話しかけれる唯一の人だとは思っていたけれど、忙しいはずの彼が企業説明に来ている事がまずおかしいのだ