あの時間を忘れる方法が あるなら

柊さんと再会してから数日後、擦り切れた足の傷も瘡蓋となり痛みも殆どなくなり、自転車に乗って海辺まで散歩に来ていた

花火‥ちゃんと見たかったな‥‥

いつまでも帰らずこの街で逃げ続けてもいいのかと考える日々が続き、穏やかに過ごせばいつから忘れられると思ったのは間違いだったのかもしれないと思えて来た

おばあちゃんにはお世話になる分自分で貯めて来たお金を少しばかり渡してはあるし、優しいおばあちゃんの事だからいつまで居ても何も言わない事に甘えてしまうのも嫌だった

何か仕事をしようかな‥‥
忙しい方が気が紛れるかもしれないから‥

海風を肌に感じながら歩いていると、海辺を上がった先にあった建物が目に入った

あんな場所から毎日海を眺めていられたら幸せだろうな‥‥
どんな人が住んでいるんだろう‥‥

きっと自分とはかけ離れた世界の人に違いない

今自分がやるべき事は1日でも早く前を向いて新しい生活を始める事だ

辰哉君なら顔が広そうだし仕事の紹介もしてもらえるかもしれない‥‥今は何でもいいから他に考える事が一つでも欲しかった

「こんにちは‥」

軒先から店内を遠慮がちに覗くと、カウンターにいた辰哉君がすぐに気付いてくれて手招きをされたので中に入った

『智さんのお使い?』

「ううん‥‥お仕事中にごめんね。あのね‥暫くこっちに居たいから辰哉君に頼って申し訳ないけど私でも仕事できる何かないかなって‥ほら私大学も出てないし教養なんてないから‥」

モジモジと話す私をカウンター越しに両肘をついて見てくる辰哉君が私のオデコを指でツンと弾くとムスッとした顔を見せる