あの時間を忘れる方法が あるなら

白地の浴衣は丁寧に保管されていたのが分かるくらいシミもなく淡い紫と水色の紫陽花が描かれていてとても素敵だ‥‥

「着るのが勿体無いくらい可愛いね‥胸がいっぱいで嬉しい‥‥」

本当はみんなが当たり前にしてることが羨ましかった‥

オシャレしたり、学校帰りに遊んだりと普通のことが沢山したかった気持ちを思い出してしまった

『結愛ちゃん、おばあちゃんが着付けてあげるから楽しんでおいで。』

「うん‥ありがとう‥おばあちゃん」

薄化粧を施した後おばあちゃんに浴衣を着付けて貰うと、辰哉君がちょうどいいタイミングで迎えに来てくれた

『智さーん、迎えに来たよ』

数日前に着た着物とはまた違うけれど、着慣れない浴衣姿で玄関先に向かうと、甚兵衛姿で団扇を仰いでいた辰哉君が私を見て固まった

「お待たせ‥‥変かな?」

紫陽花柄の浴衣に水色の兵児帯を合わせて貰った結愛の姿に辰哉は思わず見惚れてしまった

先日会った時も綺麗になったなとは思ったけれど、自然体でどこかあどけなさも残る顔立ちに
誘ったはいいが誰にも見せたくないと思うほどだった

「辰哉君?」

『あ‥へ、変じゃねえよ。それじゃあ行くか。智さん21時には連れて帰るからな。』

『ゆっくりしておいで。』

おばあちゃんが合わせて用意してくれた下駄を履くと少し照れくさそうにする辰哉君を見ておばあちゃんが背中を優しく押してくれた

『高級車は持ってないけど河原まで少しあるから後ろに乗れよ。』

高級車‥‥

こんな時まで柊さんの車や会社用の高級車のことを思い出しそうで頭を振ると、辰哉君が跨いで待つ自転車の後ろに座った