あの時間を忘れる方法が あるなら

『‥それが君の本当の気持ちなのか?』

嘘だって言いたい‥‥本当は幸せだったと‥‥

真っ直ぐ私を見つめて離さない柊さんからいつもは恥ずかしくて目を逸らしてしまうけど、心を殺して笑顔を向ける

「本当ですよ‥私も早く両親の元へ帰りたいんです。」

『‥‥‥フッ‥‥そうか‥分かった。今までご苦労だった。報酬は別で支払わせてくれ。君のおかげで母を説得できたんだからな‥』

「分かりました。川崎さんもお幸せに。」

どうしてそんな辛そうな顔を柊さんがするの?
だって‥莉奈さんが目覚めたから幸せなはずなのになんでそんなに傷付いた顔をするの?

私の上から退いた柊さんは、出て行く前にドアの前で立ち止まった

『俺の元を去る日までは莉奈としていてくれ。それが最後の仕事だ。』

「‥分かりました。約束します」

パタンとドアが閉められると、今までの楽しかった思い出が走馬灯のように蘇り一気に瞳から涙が溢れ出る

何度もあの優しい手に撫でられた頭も、力強い腕に抱き締められた事だけでなく、毎日起きて交わした挨拶や一緒に食べた食事も‥‥

慣れないスーツを着て仕事を一生懸命覚えて、珈琲を淹れて運ぶだけでも幸せだった

(柊さん‥‥絶対好きになってはいけない人なのに、こんな感情を抱いてしまってごめんなさい。嘘でも偽りでも身代わりでもあなたのそばで過ごしたこの時間が既に恋しい‥‥。最後に傷つけてしまったけど、莉奈さんとどうかお幸せに‥‥)