あの時間を忘れる方法が あるなら

柊さんに椅子を引かれてそこに腰掛けると、朝日が差し込む美しいテラスで出来立ての美味しい食事をいただくことにした

「いただきます」

両手を合わせてから普段食べることのない誰かが作った出来たての料理は、味覚だけでなく心も幸せに満たしてくれる

美味しい‥‥冨田さんにこれから毎日レシピを聞いて覚えようかな‥‥

ここを去る時までに、柊さんに日頃のお礼も兼ねて作りたいと思えたのだ

そして、家に帰ってから大好きな家族にも作ってあげたらきっと喜んでくれるはず‥‥

ずっと会えていない家族のことをふと思い出してしまい、胸が詰まりそうなほど切なくなりながらも今はその気持ちを心の奥に隠した

『母さん』

お母様が気付くように見える位置のテーブルを手で軽く叩くと、お母様が手話で柊さんと何かを話し始めた

すごい‥‥
早くて2人とも何を話しているか分からないけれど、私に聞こえないようにしているのか、柊さんも手話のみで声を口に出していない

『莉奈』

「はい」

『急遽今日の夜海外とオンラインで会議が入って帰りが遅くなる。そばにいると約束したのに帰りが深夜になりそうだ。平気か?』

私がそばにいて欲しいなんて言った事で柊さんを困らせてしまうくらいなら下手に言わない方が良かったと後悔する

不安な事には変わらないけれど、結局ここで頑張るのは私なのだ

「ありがとうございます。大丈夫ですよ。」

『そう‥君は君らしくいればそれだけで大丈夫だ‥それだけは忘れないでくれ。』

柊さん‥‥