あの時間を忘れる方法が あるなら

それにしてもこの間はちゃんと見てなかったけれど、相当大きなお屋敷だ‥‥

縁側から見えた日本庭園はとても立派で美しく、池には鮮やかな鯉が何匹も泳いでいた

当たり前だけど、私の両親の借金を簡単に返せるほどの人だし、私とは生きて来た世界が違うのだと改めて思い知らされた

『こちらです。‥‥奥様、坊ちゃんと長浜様がお見えになりました』

少ししてから先日お会いした女性が立派な扉を開けてくれたので、頭を下げてからお部屋に足を踏み入れると、ソファで紅茶を優雅に飲む
お母様と目が合った

「こんにちは。この度は体調管理が出来ておらず日にちが遅れたことをお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした。」

『こちらに来て座りなさい』

えっ?

手話で通訳をしてくれるのを待っていると、お母様がみずから声を出した事に私だけでなく柊さんもかなり驚いているようだった

とても優しくて綺麗な声‥‥
言われなかったらとても耳が聞こえない人には見えないほどその姿は美しく感じられた


『こちらをどうぞご覧ください』

向かいのソファに2人で腰掛けると、女性が差し出した用紙を柊さんが受け取り目を通すと、すぐにその用紙を少しだけ乱暴にテーブルに置いたことに驚く



『‥どういう事ですか?』

『奥様はこちらで住むことを許可されましたが、起床時間以外は自由にしなさいとおっしゃっておりました。』

自由?‥‥ここにはご指導して頂くために来たつもりだったのに‥‥それでは何をしたらいいのか分からない‥‥

『長浜さん』

「は、はい!」

不安が顔に出てしまっていたのか、お母様に突然名前を呼ばれて心臓の鼓動が早くなる

『柊の隣にどんなあなたがいる事が1番か考えれば自ずとやるべき事は分かるはずです。私を助けてくれた時のように動ける人なら言わなくてもいいと思えたのよ。出来そうかしら?』

ドクン