あの時間を忘れる方法が あるなら

柊 side

『はぁ‥‥』

『社長、何か困りごとでもありましたか?』

『いや‥‥なんでもない。それより、莉奈の事で困っている事はないか?』

熱を出して寝込んでいる彼女を急遽休ませたものの、様子が気になって仕事が思ったように手につかない

倒れるほど心身ともに負担が重なったのだろう‥‥。診てくれた医者も疲れが相当溜まっているから安静にと言っていた

『特に何もありません。‥寧ろ慣れない環境下で文句の一つも言わずによくやっているかと。』

『フッ‥‥そうか、それなら良かった‥』

家だけでなく、外でも人柄がきっと勝手に出てるんだろうな‥‥。いつも腰が低く俺に話しかけること一つでも気を遣っているのが伝わる

『社長‥雰囲気が柔らかくなりましたね。他の社員も皆、そう言っております。』

もしそれが本当だとしたら、間違いなく佐々木さんの存在が大きいと思う

八雲を下がらせると、階下を見下ろせる窓辺に立ちまた一つ溜息を溢す

自分をあの時助けたのが莉奈だと分かった時は本当に嬉しくて、彼女に残った傷の責任を一生かけて償いたいと思えた

少々我儘な部分もあったけど、命をかけて守ってくれた事に比べたらいくらでも目を潰れた

莉奈が喜んで笑ってくれさえすればそれでいいと思ったし、離れていた分これからは俺がそばで守っていくつもりだった

施設育ちの彼女と出生を考えれば両親が受け入れないのは最初から分かっていた。だからこそ、昔攫われた時助けてくれた事も話した。

それでも、母は頑なに首を振らなかった