あの時間を忘れる方法が あるなら

『これは全てここに送ってくれ。』

『かしこまりました、すぐに手配致します。』

帰る前に街を見渡すと、以前働いていたカフェを見つけ立ち止まった

あそこで柊さんのお付きの人に声をかけられたのが始まりだった‥な‥‥

ずいぶん昔の事のように思えるけれど、今こんなに綺麗な装いをした私が粗末な服を着てバイトに明け暮れていた私を見つめる

こんな近くに当時の私が知らない世界があったんだなと‥‥

『莉奈?どうかしたのか?』

「‥‥いえ‥ただ‥懐かしくて‥‥あそこを角を曲がった所にあるジェラートのお店が美味しかったなって‥」

当時の私には滅多に食べれるものではなかったけれど、一度だけアルバイトの帰りに食べた味がとても美味しかったのを覚えてる‥

『フッ‥‥それなら食べに行こう』

えっ?

私の手を取られると、大きな手が私の手を包み込み、そこから指を絡めて恋人繋ぎになった事に慌てて柊さんを見上げる

「何で‥‥?」

『なんでって‥今俺達は何処にでもいるただの恋人だろう?』

ドクン

フッとまた綺麗な顔で優しく笑うその顔に思わず見惚れそうになり、いい年をした大人が手を繋いだだけで恥ずかしさでいっぱいいっぱいになり、周りからどう見られているか不安で堪らなかった

こんな気持ち‥‥これ以上膨らませたらきっと自分がツラくなるだけ‥‥

紙切れ一枚の契約上に成り立つ関係に愛情も感情も必要以上に抱いてはいけない。

それでも‥今だけは繋がれたこの手をやっぱり離したくはなかった