あの時間を忘れる方法が あるなら

私を連れ去ったという事は、その対象は少なくとも結愛である自分ではないはず‥

震えながらも何かできないかと立ちあがろうとした時、誰かが近づいて来る足音に体が一気に強張った

心音がどんどん大きくなり、今まで生きてきて感じたことなどない恐怖に吐き気がしてしまう

怖い‥‥どうすればいいの‥‥?


両手で口元を押さえて泣くのを堪えていると、目の前の障子が静かに開けられた


「ッ‥!!‥どうして‥あなたが‥?」

昼間とは違って、上品な淡い寒色系のお着物に身を包んだ女性は、スーツを着た女性を従えて部屋に入ると、呆然とする私の目の前に正座をして座った

一体何がどうなっているのだろう‥‥

ほんの数時間前に街で助けたあの耳が聞こえない女性に間違いない‥‥

けれど、彼女が私を攫った人なの?


『手荒な真似をしてここに連れてきたこと、驚かせてすみません。あなたとどうしても話がしたかったからと仰っています。』

私と?

『私をあの場で助けたのは恩を着せる為だったのですかとも‥』

えっ!?

手話を訳してくれるその内容を真剣に聞いているとその言葉に驚いてしまう

「ッ‥私は会社のお使いで近くの和菓子屋さんに来ていました。そこで偶々あなたが倒れたのを見かけて駆け寄っただけです。見返りなど何も求めてはいませんし、ただお怪我が心配なだけでした。‥私の行動で誤解をさせてしまったのなら謝ります」

女性の方を真っ直ぐ向いて落ち着いて話すと、女性がまた手話をし始めた