あの時間を忘れる方法が あるなら

私を連れ去ったという事は、その対象が莉奈さんなのかは分からないが、少なくとも結愛である自分ではない

震えながらも何かできないかと立ちあがろうとした時、誰かが歩いて近づいて来る足音に体が一気に強張った

心音がどんどん大きくなり、今まで生きてきて感じたことなどない恐怖に吐き気がより込み上がってゆくと、襖が開かれた場所にいた人物に目を疑った

「ッ‥‥どうして‥‥?」

昼間とは違って、上品な淡い寒色系のお着物に身を包んだ女性は、スーツを着た女性を従えて部屋に入ると、呆然とする私の目の前に正座をしたので、私も慌てて姿勢を正して座り直して頭を下げた

一体何がどうなっているのだろう‥‥

ほんの数時間前に街で助けた女性は、私を真っ直ぐ見据えると、昼間とは違い冷たい表情で隣の人に手話をし始めた

『手荒な真似をしてここに連れてきたこと、驚かせてすみません。あなたとどうしても話がしたかったからです。』

私と?

『私をあの場で助けたのは恩を着せる為だったのですか?』

手話を訳してくれるその内容を真剣に聞いていたのに、酷い言葉に驚いてしまう

「私は偶々会社のお使いで近くの和菓子屋さんに来ていました。そこで偶々あなたが倒れたのを見かけて駆け寄っただけです。見返りなど何も求めてはいませんし、ただお怪我が心配なだけでした。‥私の行動で誤解をさせてしまったのなら謝ります。」

女性の方を真っ直ぐ向いて落ち着いて話すと、女性がまた手話をし始めた