あの時間を忘れる方法が あるなら


『お買い上げありがとうございました』


ある日、仕事の合間に八雲さんに頼まれて会食時に取引先の方々にお渡しする手土産を買い、運転手さんと車に荷物を運んでいた。


『離せよ!!』

何だろう‥‥

突然聞こえた男性の怒鳴り声に手を止めると、
細い路地の方でで女性がその男性に必死に訴えかけるように服を掴んでいるのが見えた

「すみません、ちょっと見てきます」


どうしても気になってしまい運転手さんに後を頼むと、目の前で男性が女性を思いっきり押して走り去ってしまった

「ッ!!大丈夫ですか!?」

転んだ拍子に掌と右腕を擦りむいたのか、そこには血がみるみる滲んできていた

「すみません!バイ菌が入るといけないので応急処置をします。」

地面に倒れ込む女性を起こし、鞄に入っていた未開封のペットボトルに入ったお水を傷口にゆっくりとかけた。

なんて酷いことを‥‥

ここの路地は大通りとは違って地面も整えられていない為服などにも泥が付いてしまっている

「痛くないですか?」

『‥‥‥』

えっ?

座り込む女性が、ゆっくりと自分の耳を指さすとその次に顔を横に何度も振った

あ‥ッ‥この人‥耳が聞こえないんだと咄嗟に理解をすると、体を支えて近くの公園のベンチに座らせ、メモ帳にこう書いた

【傷口は傷みますか?今、消毒や絆創膏などを買ってきますね。】

女性がメモを見た後私の顔を見て驚いていたので、笑顔を向けて血が滲むその場所を清潔なハンカチで押さえるように伝えた