あの時間を忘れる方法が あるなら

謝るべきなのは私の方なのに、柊さんが謝るのはおかしいと思い、すぐさま首を大きく横に振る

『嫌な思いもさせてしまった‥‥それに見たこともないような汚い欲にまみれた世界に君を巻き込んでしまった‥‥。』

覚悟を決めてこの世界に一歩足を踏み込んだ時点で、経験した事のない事がたくさん起きることは分かっていた

ただ、その覚悟が思った以上に足りなかったと痛感しているだけだ

「柊さん。私は私の家族を助けていただいた恩返しをして柊さんと莉奈さんに1日も早く幸せになって欲しいと思っています。確かに今日は怖さで震えてしまいそうになったのは事実です‥‥素が出てしまったことを謝るのは私です‥‥。もし身代わりとして役不足だと思いましたら、出していただいたお金は一生かかっても返します‥‥形は変わってもお2人の幸せを願うことは出来ます。ここでの話は誰にも話しません‥約束します。私こそあなたの役に立てなくて本当に申し訳ありません‥」

素性がどこでバレるか分からない日々はとても窮屈で、両親に会うことさえも出来なくてツラくないと言ったら嘘になる

でも、何の取り柄もない自分を底から引っ張り出して救ってくれ、何不自由ない生活を与えてくれるだけでなく、柊さんからの優しさに日々救われていた

だから‥謝らないで欲しい‥‥

『悪いが‥今後も君以外にこの契約を頼むつもりはない』

えっ!?

グイッと手首を引き寄せられると整った顔立ちが目の前に迫り驚いて目を見開く

今にも鼻がぶつかりそうな距離で見つめられる瞳から目を逸らしたくても緊張して体が動かない