あの時間を忘れる方法が あるなら

『旦那様、奥様、お食事をお持ち致しました』

富田さんに続き、ワゴンを押しながら広間に足を踏み入れ頭を下げると、こちらを見つめる男性と目が合いもう一度軽く頭を下げた

お父様は柊さんに目元や雰囲気が良く似ていてやっぱり素敵な方だ‥‥

川崎不動産グループの頂点に立つ方だからこそのオーラも座っているだけなのに勿論兼ね備えている程近寄りがたい存在に思う

それから私と冨田さんは順番に前菜やスープ、メインを運び辰哉君はその都度お料理に合うお酒を丁寧に説明しながら振舞っていた


『そろそろ柊の恋人を紹介してくれないか?』

‥‥未だにこの状況を理解できていないまま食事会は終わり、カトラリーを片付けていると、柊さんのお父様が落ち着いた声でそう口にした


柊さんの事をもちろん信じてる‥‥
それなのに、柊さんの事を騙している莉奈さんが堂々とここにいる事に嫌悪感を感じる私は前を向く事が出来ず下を向いて両手を握り締めた

半年前‥元々はこうなる事を願って柊さんと契約をし、ご両親に認められて堂々と交際が出来るよう手助けする役目を担っていた

それなのに‥‥こんなにも彼のことを愛しく思いとても大切に思えるなんて思わなかった

泣いてはいけない場で、グッと堪えてその時を待つと、私の大好きな香りに思わず顔を上げた


すると、愛しい人が綺麗な顔で優しく微笑む姿に訳がわからなかったが、瞳から涙が溢れた

『父さん‥彼女が俺の大切な人です』

ドクン