あの時間を忘れる方法が あるなら

あれからすぐに秘書室に戻り、八雲さんと急いで仕事を纏まると、柊さんと3人でエントランスを出て待っていた運転手さんが高級車のドアを開けてくれた

「あの‥八雲さんは一緒じゃないんですか?」

後部座席に柊さんと乗り、八雲さんが助手席に乗るものだと思っていたのに、車が出発してしまって少しだけ焦った

お疲れ様でしたも言わずに乗ってしまったし、
残業を手伝って頂いたのにお礼も言えていない

てっきり助手席に乗るものだと思っていただけに、急に緊張が増してしまった

『‥君は少し八雲に懐き過ぎたな。居ないと寂しいなら今日だけは我慢してくれ』

「えっ!?そんな‥ち、違います‥‥八雲さんは尊敬する上司です。」

『上司‥ね‥‥。』

「はい‥上司です」

何だろう‥‥
今日の柊さんはいつもよりよく話してくれる気がする‥‥

ククっと喉を鳴らして笑う姿に苦笑いが出てしまったが、次の瞬間右手をそっと握られたことで一気に体に力が入ってしまった

『相変わらず小さい手だな‥‥』

柊さんの手にすっぽりと収まる私の手を握ったまま仕事の電話も応対し、マンションに着くまでずっと離してもらえなかった

「あ‥あの‥手を繋いだままなんですか?」

車から降りたら離されると思っていたのに、そのまま手を引かれてエレベーターに乗ると、柊さんが焦る私を見つめてフッと笑みをこぼす

少し前まで毎日のように過ごしたあの場所に、もう一度足を踏み入れる日が来るなど本当に思わなかった‥‥

色々な思い出や感情が蘇り胸が苦しくなるほど
本当に色々な事があったし、生まれて初めて経験が出来ないような生活をした場所だから忘れる事が出来なくて毎日苦しんだ