あの時間を忘れる方法が あるなら

柊さんの言葉に暫く黙っていたお母様だったが、溜息を溢した後立ち上がり帰る前に私の肩に優しく触れた

『娘が会いたがっているわ。落ち着いたらあなたも顔を出しに来なさい‥』

お母様‥‥

そんな事はもう出来ないと思っていたからか、かけられた優しい言葉に目頭が熱くなり涙が目に溜まった

2人きりになった個室で訳もわからず柊さんを見つめると、頬に流れる涙を優しく指で拭い頬を撫でてくれる手にまた涙が溢れる

『ちゃんと説明するから、今日の夜2人で過ごしたあの家に一緒に帰ってくれないか?』

「ッ‥‥でも莉奈さんは」

『フッ‥‥莉奈とは一緒に暮らしていない。あの部屋も君が居た頃のままだ。だから一緒に帰ろう。』

柊さん‥‥

本当なら今すぐにでも聞きたい事は沢山あり、正直仕事どころではない気持ちもあったが、帰りの車の中で既に遅れた分の仕事をし始める柊さんを見てこんな時だからこそ落ち着くべきだと思えた

「ただいま戻りました」

『おかえり。もっとゆっくりして来ても良かったのに早かったね』

『柊さんは?社長室?』

ドクン

先程ひっぱたいた事などなかったかのように振る舞う莉奈さんだったが、先程柊さんから聞かされた衝撃的な内容の事で顔に出ないようにいつも通り返事をした

『結愛ちゃん、今日は残業なの?』

秘書課に行き、総務に回す経費の書類をボックスに入れると、帰り支度をしていた梶さんが声をかけてくれた