あの時間を忘れる方法が あるなら

八雲さんが俺に任せてと言っていたから自分から書類の事を話してもいいのか悩んでしまい口をキュっと結ぶ

莉奈さんがきちんと渡しているなら莉奈さんを疑う事になってしまうし、柊さんにとって大切な人をそんな風に言いたくもない‥‥


「あの‥‥書類のサインが終わりましたらまた伺いますのでお呼びください」

伝え方に悩んだ末そう伝えると、淹れたての珈琲を品よく飲んだ柊さんが目を伏せた後私を見上げた

『守秘義務の事は知っているな?』

「ッ‥はい‥勿論です」

『では、何故その書類を長浜さんに渡したんだ?』

ビクッ

少しだけ低い声を発する柊さんに体が思わず強張り、握り締める手に力が込められる

どうしよう‥‥莉奈さんとのやり取りを正直に伝えるべき?

初日なのにいきなり信用に値する行為をしてしまい、既に必要ないと通告されてしまったらどうしよう‥‥

「ッ‥申し訳ありませんでした」

言い訳など柊さんは求めてない‥‥
ただ悪い事をしたら謝罪するのは当然のことだから、今は謝る事しか思い浮かばなかった

頭を下げて足元を見つめると、緊張からか体が少しだけ震えている事に気付く

やっぱりあの時こうしておけば良かった‥なんて秘書業務には通用しないくらい一歩間違えたら取り返しのつかない事になるって分かってたのに悔しい‥‥

『顔を上げて‥』

えっ?

いつの間に私のそばに来たのか分からず、いつの間にか視界に柊さんの革靴が見え、頭に優しく手が触れたと思ったらそこを撫でられた