あの時間を忘れる方法が あるなら

『八雲‥勤務中だ』

私の頭に触れていた手が最後にそこをポンポンとさすってくれたが、柊さんの低めの声に立ち上がり頭を下げた

『申し訳ありません。佐々木さんが落ち込んでいたものですから‥つい』

『‥‥落ち込んでた‥?何が』
『柊さん?会食に遅れるから急がないと‥』

私をジッと見つめる視線にも表情を変えずに背筋を伸ばして立つと莉奈さんが柊さんの腕に手を絡ませ甘えた声を出したが、それを振り払われてしまっていた

『‥行ってくる。3時ごろには戻る』

『「行ってらっしゃいませ」』

八雲さんとお見送りをすると、また溜息がつい溢れてしまったが、約束通り食事をしないととお弁当を何とか口に運び、社長が不在でもやる事は多い業務を教わり練習も沢山させていただいた

『佐々木さん、社長があと5分ほどで戻られるみたいだからまた珈琲頼めるかな』

「はい、すぐに準備致します」

もう一度同じようにして珈琲を丁寧に淹れていると、社長達の声が聞こえたのでタイミングを少し置いてから社長室を訪れた

「社長、珈琲をお持ち致しました」

『ありがとう。少しいいか?‥長浜さんは八雲に指示を受けてくれ』

えっ?

莉奈さんの痛い視線を感じながらも社長にそう言われては動ける訳もなくデスクの前に立ち両手を合わせて握りしめると莉奈さんが社長室から出て行ったのを確認してから柊さんが椅子の背もたれから体を起こした

『悩んでると言ったが俺には言えないか?』

ドクン