あの時間を忘れる方法が あるなら

『ふふ‥ごめんなさいね。でも、話の途中で背を向けたあなたが悪いのよ?』


明らかに冷ややかな視線で私を見下ろす瞳に、本当にこの人が柊さんが大切にしている人なのかと疑問さえ湧いてしまった

「社長が待ってますのでもういいですか?」

痛む手を庇いながらも珈琲を淹れてからトレイに載せると莉奈さんの横を静かに通り過ぎ社長室をノックした

「社長、佐々木です。」

『入って』

「はい、失礼します」

静かにドアを開けると頭を下げてから社長室に入り既にデスクで仕事をしていた柊さんの邪魔にならないように少し離れた場所に珈琲を置いた

陶器のように綺麗な滑らかな肌と美しい顔立ちは仕事中でも失われず、寧ろ集中しているとより磨きがかかって見えてしまうほどだ

「‥では私は失礼します」

『待て‥‥その手はどうした?』

ドクン

手の甲に触れないようにか手首を咄嗟に掴まれると、柊さんが赤く腫れたその部分を見て眉を寄せた

「すみません‥不注意でお湯がかかってしまいましたが大した事はありませんので」

『医務室に行って処置して来なさい。仕事はそれからだ』

「はい‥かしこまりました」

手首を離されると、置かれた珈琲カップに薄くて綺麗な唇を付けて品よく飲む姿に見惚れてしまいながらも頭を下げて背を向けた

『佐々木さん』

えっ?

『‥‥次の珈琲もこの味で頼む』

「ッ‥‥」

綺麗な顔でフッと優しく笑う社長にもう一度向き直り頭を下げると社長室を後にした