あの時間を忘れる方法が あるなら

昨日までの私だったら動揺して不審がられていたかもしれないが、身なりを整えて仕事モードになっている今はもう秘書として仕事が始まっている

「本日より社長の秘書を務めさせていただく佐々木と申します」

莉奈さんに丁寧にそう伝えてから頭を下げると、彼女は私に気付いたのか柊さんを見上げながらスーツの膝あたりを引っ張っていた

髪型やメイクや雰囲気が違っても名前は知っていると思うし、秘書をやる以上隠し通すことなど出来ないから一社員として接するだけだ

『‥どういうこと?柊さんの秘書は八雲と私がいるからあなたは必要ないわ」

「申し訳ありません。人事より通達がありましたので私の一存で去る事は出来ません」

私が来たくてここに来たわけじゃない‥‥

上司からの指示に従ったまでだ‥‥

『莉奈』

『柊さん!ちゃんと説明して!?』

『君に説明する必要はない。会社として必要な場所に配置しただけだ。莉奈こそ八雲の補佐として私情を持ち込まず働いて欲しい』

『ッ!‥‥分かってる』

エレベーターの中が重苦しい雰囲気になりながらも、俯かない私を見つめる柊さんがフッと笑った気がした

エレベーターのドアが閉じないように2人が降りるのを待ってから私も降りると、つい最近までいた場所に少しだけ胸が締め付けられた

最上階には社長室と秘書室があり、一つ下の階に秘書課と常務、専務などの重役室がある

主に最上階で補佐の仕事をしていたけれど、秘書課の人達とも莉奈さんとして少しだけ関わり合いがあり皆さんいい人ばかりだったので、新しい自分としてではあるけれど楽しみだった