あの時間を忘れる方法が あるなら


肩に置かれた手を振り払わずそっと降ろすと、
男性に向かって丁寧に頭を下げた

「よろしくお願いします。安倍さん」

知っていることでももう一度最初から改めて覚え直したい事もきっと沢山あるはず‥‥

今までは柊さんのそばで守られて来た自分ではなく、1人で戦っていかないと何も変わらないし変われない

前回は連れてこられたけど、今回はここに来ると決めたのは自分自身だ

まだ何も進めていない状態だからこそ、新鮮な気持ちでスタートしてみたかった

『ん?‥‥へぇ‥‥いい顔するね。あのさ‥一つだけ言ってもいい?』

「は、はい‥何でしょうか?」

『柊のこと好きになったらダメだよ‥‥』

ドクン

さっきまでニヤっとしていた緩い顔つきが一瞬で真顔になると恐怖が何倍も強くなる

『なんてね‥‥。柊にはどうやらここ最近溺れてる人がいるみたいだからどっちにしろ眼中にもないから大丈夫か‥‥まぁ一応忠告だけしとくよ。』

「大丈夫ですよ‥それだけはないですから‥」

『えっ?』

「いえ‥‥目に留まるほど失敗しないように頑張りたいです」

心配しなくても、私が手を伸ばせるような人じゃない事くらい痛いほど分かってる‥‥

チクッと胸が痛みながらも、笑顔で安倍さんにそう答えると、また先程のように表情を緩めたかと思うと声を出して笑われたが、私的には本心だった

それからの平日の5日間は夕方5時まで個室で缶詰め状態で山のような資料に目を通し、苦手なパソコン業務や入力の連鎖なども沢山やらせてもらい、夜は疲れ果ててグッスリ眠れた