あの時間を忘れる方法が あるなら

『結愛ちゃん、この人、大丈夫なの?』

ドクン

ここで言い返したり冷たい言葉を使えばおばあちゃんに心配をさせてしまう‥‥そう思った私は、今度はおばあちゃんの手を両手で握ると大丈夫だよという意味も込めて笑顔で頷いた

『どうぞ』

「‥ありがとうございます」

鞄を受け取られると、頭を下げて開けられた後部座席に乗り込んだ

まさかそこに柊さんが乗っているとは知らずに、ドアに手を掛けると既にロックがかけられてしまっていた

『何もしない‥。送っていくだけだ。』

「‥‥お気遣いありがとうございます」

『八雲‥出せ』

『かしこまりました』

乗り心地が極上な広々としたシートに、専用の液晶画面が内蔵され、車が走り始めるとすぐに運転手との間を仕切るパーテーションが自動で動き始めた

『あの家は君のおばあさんの家なのか?』

「えっ?‥あ‥はい‥そうです」

いくら普通の車よりは広くても、1時間以上2人きりで過ごすのには耐え難い‥‥

今更だけど、莉奈さんに私が側にいる事が分かればいい思いはしないのではと不安になった

『昔‥‥助けられた場所があの近くで少しばかり驚いた‥‥ここは思い入れがある場所でね』

ドクン

子供の頃の記憶が一気に目に浮かび、懐かしそうに窓の外を眺める綺麗な顔があの時の男の子と重なった気がした

‥‥そんなはずはないのにまだ何処かであの男の子が柊さんだったらと願う自分が嫌になる

この事を思い出すとどうしてもこめかみがズキズキと痛み、指でその場所を軽く揉みほぐす

柊さんと莉奈さんが出会った場所が皮肉にもおばあちゃんの家の近くだっただけ‥‥

私には関係のない話だと思い、話すのも辛かったから、そのまま瞳を閉じて到着するまで眠ったフリをする事にした。