Stellar Express

ぷしゅぅうう。


背後で静かに、重々しい音を立ててドアが閉まった。

そして、


ゴトゴトガタン.....


と動き始めた。


え。

帰れないじゃん。

あんなに家を嫌っていたのに今更帰りたいって言ってもな。


その瞬間、それまで僕を追い詰めていた夜の生温い風も、遠くで鳴っていたかもしれない街の喧騒も、

すべての音が完全にシャットアウトされた。


鼓膜に居座るのは、しん、とした耳が痛くなるほどの静寂。


ただ足元からだけ、ゴトゴト、と心臓の鼓動に似た規則正しいレールの振動が伝わってくる。


「……すごい」


思わず声が漏れた。一歩足を踏み入れたその車内は僕の知っているどんな通勤電車とも違っていた。


床も壁も、丁寧に磨き上げられた深いマホガニー調の木製。


天井からは、現代的なLEDの白い光ではなく、ガス灯を模したような温かく淡い琥珀色のランタンがいくつも吊り下げられている。


その光が木目の美しい壁やビロードでできた茜色の座席シートを優しく照らしていた。


窓枠は真鍮製で、少し古びたアンティークの輝きを放っている。


何より異常だったのは、その窓の向こうの景色だった。


うっそだろ。


列車の窓から見えるのは、見慣れた東京の退屈な夜景じゃない。

ビルもコンビニの看板も電柱も、何一つ見えなかった。

ただどこまでも深く、吸い込まれそうなほど純粋な群青色の闇。

その中に、信じられないほどの数の星が、まるでダイヤモンドの粉をぶちまけたようにきらめいている。


逆に怖いんだけど。

銀河鉄道?

スリーナイン?


列車は今、完全に空を走っている。


眼下を見下ろせば、僕たちがさっきまで生きていた街の明かりが、


まるで天の川の底に沈む小さな光のゴミのように、小さく遠ざかっていくのが見えた。



あの息苦しい教室も僕を否定した父親も、すべてが豆粒みたいに小さくなっていく。


その事実に、僕の胸の奥から言葉にできないほどの解放感が込み上げてきた。


涙が出そうなくらい胸が軽くなる。