その時だった。
「莉桜」
名前を呼ばれて振り返る。
琉生だった。
「ん?」
「ちょっといい?」
…珍しい。
なんとなくそう思った。
ドアの近くからそのままテーブルの方へ行く。
「どうしたの?」
琉生が真っ直ぐにこっちを見る。
いつものふざけた顔じゃない。
少しだけ真面目な顔。
「やっぱなんかあったろ?」
「え?」
思わず固まる。
まったく予想してなかった。
その拍子に手に持ってたスマホが滑り落ちる。
「あっ」
テーブルに落下。
丁度、琉生の目の前。
LINE画面がついたまま。
琉生が反射的に拾う。
湊からのLINE画面。
『まだ?』
『また男といるの?』
『その状況好きじゃないって言ったよね?』
『返事は』
そして、私の返信。
『いまから出る』
『ごめんなさい』
一瞬だけ。
空気が止まる。
琉生は何も言わない。
ただ、少しだけ眉を寄せた。
そして静かにスマホを返してくる。
「…見た?」
「…見えた」
「…」
「…」
気まずい沈黙。
先に口を開いたのは私。
「…悪い人じゃないよ?」
自分でも変な言葉だと思う。
琉生が少しだけ笑う。
「何も言ってねぇって」
「…」
「…」
また沈黙。
「…紅羽たちには言わないで」
「え?」
「変な心配かけたくないから」
慌てて笑う。
「いつものことだし私は慣れてるから」
そう言うと琉生は少しだけ黙る。
「分かった」
そして短く答える。
その答えに少しだけ安心した。
「ありがと。じゃあ帰るね」
「おー、お疲れ」
ドアへ向かう。
「莉桜」
呼ばれて振り返る。
琉生は少しだけ考えて、
「気をつけて帰れよ」
とだけ言った。
その言葉に思わず笑う。
「うん、また明日」
「また明日」
ドアが閉まる。
