君の隣で、私になれた



一瞬。

静まり返る。


湊さんがゆっくり俺を見る。

「……苦しそう?」

鼻で笑う。

「誰のせいだと思ってる。」

「お前がいるからだろ?」

「お前みたいな男たちが…」

「友達だからって近付くから」

「莉桜が苦しむ」

「全部、お前が原因だ」


「やめて!」

莉桜が少し強い声を出した。


「もうやめて」

「琉生は関係ない!」

「私が悪いなら私に言って……」

「友達を巻き込まないで!」


その言葉で。

湊さんの表情が変わる。


完全に何かが切れた。


「友達?……へぇ、庇うんだ?」

「俺じゃなくてこいつを」

「違う!」

「そういう意味じゃ──」


「帰るぞ」

湊さんが莉桜の腕を強く掴む。

「……っ。」

少しだけ。

莉桜の顔が歪む。


「湊さん」

思わず一歩出る。


その瞬間。

莉桜が俺の方を見て。

小さく首を振る。


「琉生。」

静かな声。

「……大丈夫。」

その一言だけ。


でも分かった。


“来ないで”

“巻き込見たくない”

そう言ってる。


足が止まる。


湊さんはそのまま。

莉桜の手を強く引いて歩く。


助手席のドアが閉まる。

すぐに運転席へ乗り込む。

車が走り出す。


赤いテールランプだけが。

少しずつ遠ざかっていった。



動けなかった。

追い掛けることも。

止めることも。


できなかった。


俺にはその資格がない。


だから。

見送るしかなかった。


握った拳だけが。

静かに震えていた。