ーーー湊の部屋。
久しぶりに。
ふたりでゆっくり過ごせる休日。
温かい紅茶を飲みながら。
何気ない話をして笑う。
そんな時間が。
少しだけ。
懐かしかった。
「莉桜。」
湊が優しく私の名前を呼ぶ。
「ん?」
「卒業したらさ」
そして優しく笑う。
「結婚しよう」
「……!」
思わず言葉を失う。
ずっと思い描いていた未来。
大好きな人と結婚して。
家族になる。
胸が熱くなる。
「……ほんと?」
「うん」
嬉しくて涙が出そうだった。
でも。
次の一言で時間が止まる。
「だから。」
「CAを辞めてほしい」
「……え?」
「専業主婦になって家にいて」
「俺が養うから」
「結婚したら働かなくていい」
頭が真っ白になる。
「……なんで?」
やっとそれだけ聞けた。
「男がいて男に笑う仕事だから」
「もう続ける必要はない」
「結婚したら家庭を優先して」
「……っ」
胸が苦しくなる。
卒業式の日。
『莉桜なら絶対大丈夫』
湊は笑って送り出してくれた。
あれは嘘じゃなかったはず。
だから。
まだ私は信じたかった。
「湊。」
「この前ね、先輩に相談したの」
湊が少し驚いた顔をする。
「最近、仕事のことで悩んでて」
「先輩がね。」
『本当に好きな人を想うなら』
『夢を諦めさせる前に』
『応援する方法を一緒に考える』
「そう言ってくれた」
「私もそうだと思った」
「だから辞めるじゃなくて、」
「どうしたら湊が安心できるのか」
「それを一緒に考えたい」
顔を上げて湊を真っ直ぐに見る。
「私、仕事は続けたい」
「やっと叶えた夢なの」
「お願い!一緒に考えたい。」
必死だった。
きっと話せば分かってくれる。
そう思っていた。
