君の隣で、私になれた




家で捨てようと思って、

まとめて持って帰ってきてた名刺。


湊がゆっくり一枚拾う。

「……何これ」

「乗客から渡された名刺……」

「今日じゃないよ、最近もらったやつ」

「捨てようと思ってて」


「なんで持って帰るの?」

「職場では捨てられないから!」

「家でまとめて捨てようと思って。」

「これ全部男だよね?」

「……うん。」


「全部で何枚あるの?」

「分かんない」

「見せて」

「え?」


バッグの中を湊が覗く。

私は思わず手を伸ばす。

「待って、捨てるやつだから」

「いいから早くして」

低い声。


私はまた何も言えなかった。

全部机に並べられる。


「……。」

湊は笑う。

でもやっぱり目は笑っていない。


「こんなの、いつもあるの?」

「たまに……」

「もちろん連絡したことない」

「その場で断れないの?」

「お客様だから……」

「仕事中なの」

「失礼なことできないよ!」


「じゃあ笑う必要ある?」

「え?」

「愛想良くする必要ある?」

「それも仕事だよ!」

思わず声が大きくなる。

「笑顔で接客するの!」

「それが仕事なの!」


「だから男全員に笑ってるの?」

その一言で。

胸が締め付けられた。

「違う!そんな言い方しないで!」

「仕事なの!」

「仕事なら何してもいいの?」

「違うって!」


「位置情報」

突然話が変わる。

「今日もずっと付いてた?」

「付いてた」

「休憩中は誰といた?」

「同期」

「男はいなかった?」

「いない」

「写真は?」

「え?」


「休憩中も撮るようにして」

「誰といるか分かるように」

言葉が出ない。


「あと今度から名刺も.」

「もらったらその日のうちに全部見せて」

「……」

「分かった?」


私は小さく頷く。

「……うん」

湊は安心したように笑う。

「心配なんだ。莉桜のこと」


その言葉は。

前は嬉しかったはずなのに。


今は。

胸が苦しくなるだけだった。