「じゃ、帰ろっか」
「うん!」
莉桜は迷うことなく助手席へ。
当たり前みたいに。
ドアを開けて。
当たり前みたいに。
シートベルトを締める。
6年。
その時間が2人にはあった。
俺には入れない空気。
「またね!」
窓を開けて莉桜が手を振る。
「またなー」
俺も手を振る。
車が走り出す。
赤いテールランプが。
少しずつ遠ざかる。
見えなくなるまで。
俺は目が離せなかった。
「……」
「琉生?」
紅羽が顔を覗き込む。
「帰るよー!」
「……あぁ」
歩き出す。
でも……
頭の中は。
さっきの2人だけだった。
笑い合う顔。
目を合わせる空気。
当たり前のように隣にいる距離。
その時。
大学の謝恩会で。
友達が言っていた言葉を思い出した。
『他の男といるの見るとモヤモヤする』
『ずっと笑顔が頭から離れない』
『完全に恋じゃん』
「……。」
そうか。
これか。
初めてその意味が分かった。
好きなんだ。
俺は莉桜のことが。
でも認めたら終わる。
相手には6年付き合ってる彼氏がいる。
その6年は…
俺なんかじゃ埋められない。
俺が入り込める場所なんて。
最初からない。
考えるな。
諦めろ。
そう思うほど胸は痛かった。
夏の夜風が吹く。
それでも。
この苦しさだけは。
少しも消えてくれなかった。
