「それ」
「莉桜が悪いって誰が決めた?」
私は答えられない。
「莉桜が決めたの?」
「……」
「湊さんに言われたから?」
何も言えなかった。
琉生は少しだけ俯く。
「……莉桜」
「苦しかったな」
その一言で。
また涙が溢れた。
「ずっと1人で抱えてたんだろ」
「俺ら、何も気付けなかった…」
「ごめんな」
私は首を横に振る。
「違うの……」
「誰にも言えなくて……」
長い沈黙。
「あと昨日の…これ…」
タートルネックの襟へ手を掛ける。
少しだけ下げた。
肌色の傷テープ。
一枚。
また一枚。
首。
鎖骨。
私は袖も少しだけまくる。
腕。
肘の上。
「ほんとは虫刺されじゃない」
そして首の傷テープを1枚だけ剥がす。
赤い跡。
「昨日の全部」
私は苦笑した。
「さすがに多いよね」
「……」
琉生は何も言わなかった。
首だけじゃなかった。
腕だけでもなかった。
見えていない場所にもまだある。
その事実だけで十分だった。
気付けば琉生の拳は。
白くなるほど握り締められていた。
私は初めて。
琉生のそんな表情を見た。
そして。
その日。
「経済学部の神崎琉生が」
「文学部まで成瀬莉桜を迎えに来て」
「2人で長い時間話していた」
そんな噂が。
静かに大学中へ広がり始めていた。
そのことを私たちはまだ知らない。
