君の隣で、私になれた



「何が安心なの?」

「え……?」

「神崎がいたら安心?」

「違う」

「じゃあ俺が迎えに行った意味は?」

「……」

「俺は実習終わって迎え行って」

「待って」



「なのにお前は」

「神崎がいてくれてよかったって笑ってた」


「違う!」

思わず声が大きくなる。

「そんな意味じゃない!」

「じゃあどんな意味」

冷たい声。


「私は……」

「転びそうになって…助けてもらって…」

「それだけで…」

「何も考えてなくて……」


「何も考えてない?」

湊が呆れたように笑う。


「それが一番怖い」

「無意識なんだよ、お前はいつも」

いつもとは違う。

少し感情的で口調が荒い湊。


「神崎には無意識で頼る」

「違う……」


私はもう一歩下がる。

壁に当たる。

もう逃げられない。


「こっち見て」


私は目を逸らす。

「莉桜」

返事ができない。

「見ろ」

私は首を横に振る。



その瞬間。

髪に手が触れる。


ゆっくり。

でも。

逃げられないように。

顔を上げられる。


「俺の言うこと聞け」

首にも指先が触れる。



逃げようとする。

けど軽く押し返されてしまう。


「まだ終わってない」

私は息が苦しくなる。



「怖い……」



その一言で空気が止まる。

湊の表情が一瞬だけ揺れる。


「……」

手も止まる。

ほんの数秒。


でも。


「怖がらせたいわけじゃない。」

低く冷たくそう言う。

「でも俺の話は最後まで聞いて」

湊は止まらない。


「神崎の方が安心する?」

「違う!」

初めて少しだけ声を張る。

「違うの……」

そしてずっと堪えてた涙が落ちる。


一滴。

また一滴。

今まで。

泣いたことなんてなかった。