部屋に入った瞬間、あの香りがして目を開ける。
何かの花の、良い香り。
それを放っている物が目の前に置かれた長いテーブルの上からだと気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
「これは…紅茶?」
茶色のテーブルに並んだ白いティーカップ。
その中の紅茶らしき液体に鼻を近づけると、花の匂いがした。
この花…なんだっけ?
嗅いだ事がある気がするのに、思い出せない。
紅茶から顔を離し、テーブルを見渡す。
辺りには美味しそうなクッキーとケーキが並び、不思議な形をしたティーポットがいくつも置かれている。
「ここで誰かお茶会でもしてたのかな…?」
テーブルを囲むように置かれた三つの席は、どれも空席。
紅茶が入ったカップはもうすっかり冷めているようだった。
片づけもしないで、皆どこに行ったんだろう。
『あら、あなたここで何をしているの?』
ふと、後ろから声をかけられて振り返る。
そこには全身真っ黒な人影が立っていた。
光りの加減でそう見えるわけじゃなくて、本当に頭から足先まで真っ黒。
まるで影のようなそのシルエットは、スカートの形でかろうじて女の子だと分かる。
「えっ…と…」
突然の事で言葉を詰まらせる私に、黒い女の子が無邪気に近づいた。
『まぁ、素敵なお茶会ね!あなたが用意したのかしら?』
「いいえ、このお茶会は私じゃなくて__」
『私はアリス!あなたは誰?』
名乗られた名前に目を丸くする。
この子は“アリス”…?
私と同じ名前だなんて。



