「おや、そうでしたか…それは可哀想に」
帽子屋は眉を八の字にして私を見つめる。
私と目が合うと、安心させるかのように優しく目を細めた。
「大丈夫、この紅茶はアリスのために淹れた物ですから…きっとあなたの口直しになる」
__勇気を出して。
__一口だけでも、騙されたと思って。
優しい声と言葉。
強引に紅茶を飲ませようとはしない帽子屋に、少しずつ私の指先がティーカップに伸びていく。
そして持ち手に指をかけた私は、目を閉じた。
ゆっくりとカップを持ち上げ、口に運ぶ。
「…っ…!」
そうして飲んだ紅茶の味は…とても美味しかった。
バラの香りが鼻に抜けて、口の中には甘さが広がる。
そこには苦味も、渋みもない。
「すごい…!こんなに美味しい紅茶、初めて飲んだわ!」
はしゃぐ私に帽子屋が嬉しそうに頷いた。
「お気に召して頂いたのなら良かった。女王様のバラ園から拝借したバラで淹れたローズヒップティーです。アリス用に角砂糖を入れています」
飲みやすいでしょう?と聞かれて、私は上下に首を動かす。
そのままゴクゴクと紅茶を飲み干し、カップの中身はすっかり空っぽになってしまった。
それを見た三月ウサギが「ああ、本当に可哀想に!」と私を見つめる。



