「お手をどうぞ、女王様。イスまでご案内するっすよ」
「ありがとう、クラブ」
女王様が彼の手を取り歩き出す。
小さな靴音がその場に響いた。
そして私の目の前を通った時、彼女は私を見て眉をひそめる。
「申し訳ないのだけど…不快だわ、あなたの顔を見るのは。早くこの館から出て行って下さる?」
「なっ…」
人の顔を見て“不快”だなんて、失礼な女王様だ。
私は反論しようとしたけれど、後ろに控える四人の視線がナイフのように突き刺さる。
私は沸き立った感情をグッと抑え込んだ。
“出ていけ”なんて言われなくても、元から館の外に出るつもりだったのだから問題ない。
私は女王様一行が現れた扉へ向かおうと足を踏み出した。
「…ちょっとお待ちなさい、アリス」
声をかけられたのは、それとほぼ同時。
私はムスッとしながら顔を向ける。
そこには、私の足元を見る女王様がいた。
何だろう…?
そう思って、私も視線を落とす。
そこには一枚の赤い花びらが落ちていた。
ほのかに鼻をつく、赤い塗料の独特な臭い。
きっと、さっきのバラ園を通った時に服にくっついていた物が取れたんだろう。
女王様は花びらを凝視したまま、ゆっくりと首を傾けた。



