「えっ…本当に?」
「ええ、本当ですとも。けれど今はこのお茶会を楽しみましょう…さぁ、紅茶を飲んで?冷めてしまう」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
私はティーカップの取っ手を摑み、口元へ運ぶ。
ゴクリと飲んだ紅茶は口いっぱいにバラの花の匂いがして甘くて美味しかった。
ふと…視線の端で三月ウサギがうつむいて震えているのが見えて、声をかける。
「どうしたの?そんなに震えて…」
「あぁ、いや…何でもないさ」
さっきまであんなに楽しそうにお喋りをしていた三月ウサギの口は、すっかり閉ざされている。
どうしたのかしら…?
そしてそれとは別に、もう一つ気になる事がある。
そういえば、と私は視線をさまよわせた。
「ねえ、お茶会に黒いアリスは来ていないの?まだ三月ウサギを探しているのかしら?」
「黒いアリスは来ませんよ」
私の言葉に帽子屋が穏やかな口調で答えた。
「来ない…?それって、どういう事なの?」
問いかけると、帽子屋の瞳がゆっくりと細められる。
「あなたが見た“黒いアリス”は、過去の記憶から生み出された残り香だからです」
ふと、私の視界がふにゃりと歪んだ。



