「加奈ちゃんは、笑顔がいいよね。」


田口くんがそう言ってくれたから、私はいつも笑顔でいられた。


大好きだった同じクラスの男の子。


だけど今は、親友の彼氏。



親友にすら恋心を隠していたのが悪かったのだ。


「私ね、田口くんに告白されて…付き合ってみようかと思ってるの。加奈、どう思う?」


若菜がそう言ってきた時、私は哀しみで心がいっぱいになった。

だけど、いまさら言いだせるはずもない。


「いいんじゃない?良かったね、若菜。」

心にもない言葉を、偽物の笑顔で述べるしかなかった。

弱い私は、それだけで精一杯だったのだ。



大好きだった男の子は、親友の彼氏になってしまった。

受け入れたくない事実。

だけど、変えられはしない現実。


若菜の幸せそうな顔を見た私は、自分の気持ちを封じ込めた。

鍵をかけて、心の一番奥にしまい込む。


好きじゃない。

好きな訳がない。

自分に言い聞かせながら、毎日を過ごしていた。