色褪せて、着色して。Ⅷ~スノードロップ編~

「……?」
 駆け落ちとは?
 太陽様、駆け落ちの言葉の意味をわかっているのだろうか。

「太陽様。確認ですが、わたくしたちの国で、駆け落ちというのは。家族や周囲に反対された男女が誰にも行き場所を告げずに姿を消すという意味合いで使われています。こちらの国でも同じような意味合いでしょうか?」
「そうっす。イチゴは罪を償うために、自宅から遠く離れた・・・とある農場で暮らしていたんですが、そこの領主の息子さんと駆け落ちして海外に行ってしまいました」
「はあ?」
 口をあんぐりと開けるしかなかった。

 どこから、突っ込めばいいのだろう。
 まず、イチゴって幾つだ?
 いや、この国では結婚できる年齢って決まってないんだっけ?

 いやいや、そんなことより。
 イチゴは実の兄である太陽様を愛しているはずだ。

 何故? と思っても。
 上手く口に出すことはできない。
 混乱している中で。
 バニラは冷静に話を聴いている。
「あの、太陽様。駆け落ちというのは本当でしょうか? 相手の方にイチゴ様が連れ去られたというようなことは?」
 バニラは、実に良い質問をした。
 ただ、あのイチゴが連れ去られるようなことは絶対にないと思うけど。
「それは、ないっす。周りの証言もありますし。イチゴが俺の兄に手紙を残していきました」
 そう言うと、太陽様はズボンのポケットからくしゃくしゃになった手紙を取り出した。

 バニラに目配せすると。
 バニラは手紙を受け取って、「拝見します」と言った。

「ナイト兄さまへ。いきなりいなくなって、ごめんね。しばらくの間、会えないけど心配しないでね。落ち着いたら、また連絡するね。次会うときは、もっと素敵なレディーになってるから。馬鹿太陽にもヨロシク。イチゴより」
 バニラは読み終えると、太陽様に手紙を返した。

「ちなみにですが、そこの農場の人達が結託して、駆け落ちをでっちあげたなどということは?」
 よくもまあ、踏み込んだ質問を…。

 遠慮のないバニラの質問に、太陽様は顔を歪ませる。
「それはないっす。その領主の息子さんの婚約者さんから証言がありますし、何よりイチゴを見張っていた騎士の証言がありますから」
 …見張っていたなら、何故。駆け落ちが成功したのだ?

 もう訳がわからない。
 太陽様は、騙されているのではないか。
 ピュアすぎる性格だから、すぐに相手の言う事を鵜呑みにして騙される。
 罪を犯したイチゴが、田舎で暮らして。
 そこの領主の息子と恋に落ちて…
 領主の息子は婚約者がいたにも関わらず、イチゴと駆け落ちして。
 海外に逃亡…?
 これは、ドラマかなにかですか?

「俺、イチゴを探しに行こうと思います」

 ぼんやりとした表情で。
 太陽様が言った。
「太陽様、それはいけませんわ」
 ぴしゃりと、バニラが言った。
 流石にバニラの言葉にカチンときたのだろうか。
 太陽様が初めてバニラに向かって怒ったような表情を見せた。