レストランを出た頃には、すっかり日が落ちていた。
夜の東京は昼間とは違う顔を見せていて、高層ビルの灯りや街灯が窓の外を流れていく様子はどこか幻想的だった。
私は柔らかなシートに身を預けながら、先ほどのディナーのことを思い返していた。
結局最後まで、フードコートへまた行きたいという話は切り出せなかった。
きっと言ったところで反対される。
夏休みに、翼様達にまた連れていってもらおうかな。
そんなことを考えていると。
突然、遠くから重低音が聞こえてきた。
ブォォォォン――――。
ブォン。
ブォォォォォン。
何台ものバイクのエンジン音。
私は思わず窓の外を見る。
すると、交差点の向こうから、何十台ものバイクの集団が現れた。
みんな金字で黒龍と刺繍された黒い特攻服を身にまとっていて圧倒的な存在感を放っている。
街の空気が一瞬で変わり、私は思わず息を呑んだ。
「これが黒龍なんですね……」
その言葉が漏れた瞬間だった。
「六花、見るな。」
紫苑兄様の声が飛ぶ。
普段の優しい声ではなく、警戒心を滲ませた低い声だった。
「佐々木、脇道に入れ。」
「かしこまりました。」
運転手の佐々木がすぐにハンドルを切ろうとする。
玲央兄様も同時に私へ向き直った。
「おいブス。」
「は、はい。」
「とっととブラインド閉めろ。」
「え?」
「見なくていい。」
「でも―――」
「いいから閉めろ。」
有無を言わせない口調だった。
けれど、私は窓から目を離せなかった。
なぜなら、初めて見たからだ。
黒龍を。
学校で噂になっている暴走族。
紫苑兄様が警戒している暴走族。
優斗が絶対に関わるなと言った暴走族。
なのに、想像していたものとは少し違った。
不思議なことに、怖いとは思わなかった。
むしろ自由を謳歌している青年達がキラキラと輝いて見えて、目を奪われた。
その時だった。先頭を走っていたバイクが突然進路を変えた。
キィッ――――。
鋭いブレーキ音。
そして、大型バイクが道路の真ん中へ横付けされる。
後続のバイクは交差点を素早く抜けていく。
「なに……?」
私は目を見開いた。
リムジンも急停止する。
佐々木さんが険しい顔になる。
「申し訳ございません。前を塞がれました。」
紫苑兄様の顔が一気に険しくなった。
玲央兄様も窓の外を睨みつける。
私は何が起きているのか分からない。
ただ、前方にいる黒龍の特攻服姿の青年だけが目に入った。
街灯に照らされた横顔と輝くブロンド。
大型バイクに跨る姿は、まるで映画のワンシーンみたいだった。
そして、気付けば無意識に呟いていた。
「……かっこいい。」
沈黙。
一瞬だった。
本当に一瞬。
だが、その場の空気が完全に止まった。
私はようやく異変に気付く。
ゆっくりと視線を横へ向けた。
紫苑兄様も玲央兄様も、二人とも、信じられないものを見るような顔で私を凝視していた。
「……六花。」
紫苑兄様の声が震えている。
「今なんて言った?」
私は首を傾げた。
「え?」
玲央兄様がゆっくり口を開く。
「お前。」
普段の俺様な態度が消えている。
「今、あの不良ども見てかっこいいって言ったか?」
私はようやく自分の発言を思い出した。
「あ……」
しまった。
そう思った時には遅かった。
紫苑兄様は胸を押さえていた。
「六花が……」
「暴走族を……」
「かっこいいと……」
ショックを受けた人みたいになっている。
玲央兄様は額を押さえた。
「終わった。」
「何がですか?」
「俺たちの教育。」
「失礼ですね!」
私は思わず抗議した。
しかし。
二人は聞いていない。
紫苑兄様は今にも倒れそうな顔をしているし。
玲央兄様は本気で頭痛そうな顔をしている。
そんな兄たちを見ながら。
私はもう一度だけ窓の外を見た。
そして。
ほんの一瞬だけ。
なぜか先頭の特攻服姿の青年と目が合ったような気がした。
夜の東京は昼間とは違う顔を見せていて、高層ビルの灯りや街灯が窓の外を流れていく様子はどこか幻想的だった。
私は柔らかなシートに身を預けながら、先ほどのディナーのことを思い返していた。
結局最後まで、フードコートへまた行きたいという話は切り出せなかった。
きっと言ったところで反対される。
夏休みに、翼様達にまた連れていってもらおうかな。
そんなことを考えていると。
突然、遠くから重低音が聞こえてきた。
ブォォォォン――――。
ブォン。
ブォォォォォン。
何台ものバイクのエンジン音。
私は思わず窓の外を見る。
すると、交差点の向こうから、何十台ものバイクの集団が現れた。
みんな金字で黒龍と刺繍された黒い特攻服を身にまとっていて圧倒的な存在感を放っている。
街の空気が一瞬で変わり、私は思わず息を呑んだ。
「これが黒龍なんですね……」
その言葉が漏れた瞬間だった。
「六花、見るな。」
紫苑兄様の声が飛ぶ。
普段の優しい声ではなく、警戒心を滲ませた低い声だった。
「佐々木、脇道に入れ。」
「かしこまりました。」
運転手の佐々木がすぐにハンドルを切ろうとする。
玲央兄様も同時に私へ向き直った。
「おいブス。」
「は、はい。」
「とっととブラインド閉めろ。」
「え?」
「見なくていい。」
「でも―――」
「いいから閉めろ。」
有無を言わせない口調だった。
けれど、私は窓から目を離せなかった。
なぜなら、初めて見たからだ。
黒龍を。
学校で噂になっている暴走族。
紫苑兄様が警戒している暴走族。
優斗が絶対に関わるなと言った暴走族。
なのに、想像していたものとは少し違った。
不思議なことに、怖いとは思わなかった。
むしろ自由を謳歌している青年達がキラキラと輝いて見えて、目を奪われた。
その時だった。先頭を走っていたバイクが突然進路を変えた。
キィッ――――。
鋭いブレーキ音。
そして、大型バイクが道路の真ん中へ横付けされる。
後続のバイクは交差点を素早く抜けていく。
「なに……?」
私は目を見開いた。
リムジンも急停止する。
佐々木さんが険しい顔になる。
「申し訳ございません。前を塞がれました。」
紫苑兄様の顔が一気に険しくなった。
玲央兄様も窓の外を睨みつける。
私は何が起きているのか分からない。
ただ、前方にいる黒龍の特攻服姿の青年だけが目に入った。
街灯に照らされた横顔と輝くブロンド。
大型バイクに跨る姿は、まるで映画のワンシーンみたいだった。
そして、気付けば無意識に呟いていた。
「……かっこいい。」
沈黙。
一瞬だった。
本当に一瞬。
だが、その場の空気が完全に止まった。
私はようやく異変に気付く。
ゆっくりと視線を横へ向けた。
紫苑兄様も玲央兄様も、二人とも、信じられないものを見るような顔で私を凝視していた。
「……六花。」
紫苑兄様の声が震えている。
「今なんて言った?」
私は首を傾げた。
「え?」
玲央兄様がゆっくり口を開く。
「お前。」
普段の俺様な態度が消えている。
「今、あの不良ども見てかっこいいって言ったか?」
私はようやく自分の発言を思い出した。
「あ……」
しまった。
そう思った時には遅かった。
紫苑兄様は胸を押さえていた。
「六花が……」
「暴走族を……」
「かっこいいと……」
ショックを受けた人みたいになっている。
玲央兄様は額を押さえた。
「終わった。」
「何がですか?」
「俺たちの教育。」
「失礼ですね!」
私は思わず抗議した。
しかし。
二人は聞いていない。
紫苑兄様は今にも倒れそうな顔をしているし。
玲央兄様は本気で頭痛そうな顔をしている。
そんな兄たちを見ながら。
私はもう一度だけ窓の外を見た。
そして。
ほんの一瞬だけ。
なぜか先頭の特攻服姿の青年と目が合ったような気がした。

