財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

何が起きているのか理解する前に、蓮くんが耳元へ顔を寄せてきた。

「六花。」

低く甘い声。

私は反射的に肩を震わせた。

「お願いだからさ。」

耳元で囁かれる。

「タメ口で話してよ。」

熱が一気に顔へ集まる。

「そ、その……。」

言葉が出てこない。

「だって。」

蓮くんは楽しそうに笑った。

「そっちの六花の方が自然体で可愛いよ?」

その瞬間。

頭の中で何かが弾けた。

「~~~~っ!!」

顔が熱い。

絶対真っ赤だ。

耳まで熱い。

まともに蓮くんの顔を見ることもできない。

「れ、蓮様……!」

「様いらない。」

「む、無理です……!」

「お願い。」

「うぅ……。」

私は助けを求めるように翼くんと碧くんを見る。

だが。

二人とも妙に静かだった。

翼は面白そうにこちらを見ている。

碧さんはなぜか無表情だった。

逃げ場がない。

私はしばらく葛藤した後。

小さな声で呟いた。

「……お父様に内緒にして下さるなら……。」

「ほんと?」

蓮さんの顔がぱっと明るくなる。

「は、はい……。」

「やった。」

蓮さんは満足そうに笑った。

私は恥ずかしさで俯いてしまう。

その様子を見ながら。

碧は静かに胸の奥へ手を当てた。

さっきまで何とも思っていなかった。

蓮が六花に近付いても。

肩を抱いても。

冗談を言っても。

いつもなら笑って見ていられたはずだった。

なのに。

今は違う。

胸の奥が妙にざわつく。

面白くない。

なぜか分からない。

けれど。

蓮が六花を見て笑うたびに。

六花が顔を赤くするたびに。

心のどこかがチクリと痛む。

そして碧は初めて理解した。

ああ。

これが嫉妬なんだ、と。

そして同時に。

自分が六花へ抱いている感情が、天然記念物に対する興味ではなくなり始めていることにも気付いてしまったのだった。