「ユキちゃん、今から行かない?AnBar、だったっけ」
「駄目だ」
「なんで?連れて行くって約束したじゃない」
リンコが不満そうに口を尖らせた。
ユキはちらりと私のことを見てから、すぐに何事もなかったかのように視線を逸らした。
「今日は、駄目だ。他の店ならいくらでも付き合うから」
……いくらでも?
あれ。
なんだか、変だ。
ユキは自分の時間を簡単に他人に割くような人じゃない。
それに、自ら誰かをAnBarに連れてくるなんてこと、これまで一度も無かった。
──この人は、ユキにとって特別な人なのかな。
リンコは納得のいかない様子で「ふぅん」とボヤくと、私に視線を戻した。
「カナコはいつもお店にいるの?」
……もう呼び捨て。
なかなか距離感の近い人だな。
「いえ、出勤は週に3日です」
「そう。そしたら……」
リンコがスマホを取り出した。
「連絡先交換しましょ。出勤の日を──」
ユキの手が突然、割り込んできた。
リンコが差し出しかけたスマホが、私から遠ざかる。
「行くぞ。ソイツは仕事中」
「いいじゃない、少しくらい」
「ソイツのことは構うな」
その瞬間、思わず眉間に力がこもった。
……なんで、そんな言い方をするんだろう。
ユキの横顔は、冷え切っている。
いつもの顔なのかもしれない。
だけど、どうしてかな。
いつもの表情よりも、どこか……何か、違う。
目の逸らし方が、バンに似ていた。
『見たくない』
そんな嫌悪の感情さえ、無表情のその奥に透けて見えた気がする。
二人は私のすぐ目の前で、いくつか仲睦まじげに言葉を交わした。
再び隙間なくぴったりとくっついて、私の前を通り過ぎていった。


