「もう……仕方がなかったんすよ」
ぽつりと嘆かれた声。
野間は細い目をさらに細くして、困ったように眉を寄せていた。
視線はどこか遠くを見つめている。
「紫藤さんも多夜さんも、好き勝手やってくれて。こっからどう取り戻すんですか?」
「何の話?」
「カナコさんの今の居場所をサゲでもしないと、カナコさんはもう僕らのところに来てくれないでしょ」
「行きたくない」
Re:bidoに、行きたくない。
簡単に私の居場所を奪う、野間が嫌だ。
何を考えているかわからない、多夜が嫌だ。
……シドが、嫌だ。
誰も、私のことなんて見てない。
Re:bidoが、もう……嫌だ。
「あのAnBarとかいう場所は、そんなにもカナコさんにとって大切ですか?」
大切……。
考えるより先に浮かんだのは、なんてことのない日々。
カウンターでお酒を作るサンコンの穏やかな横顔。
お酒を片手にする、潤の豪快な笑い声。
軽口を叩く、バンのいたずらな顔。
私のことを『かぁこ』と呼びつける、つまらなそうなユキの顔。
失くしたくない。
失くすのが……怖い。
私の、ささやかな日常。


