「……ア……」
バンが、あんぐりと口を開けたまま、気を失っている。
バンを殴ったのは、サンコン。
床からはじけ飛ぶようにして、その場に立ち上がった。
野間に対峙するその顔。
見開いた目に、とてつもない怒りが見える。
「……ふん」
野間は怪物のようなサンコンを前に、鼻を鳴らした。
そして私の手を引き、庇うように背中に隠す。
「やっぱこうなっちゃうか……」
野間がわずかに腰を落とし、構えた瞬間──……
「──……サンッコォォォン……!!」
空気そのものを切り裂くような、ユキの怒号。
その声がフロアに反響している間に。
ユキは瞬く間に二人の間へ割って入り、サンコンの首筋へ肘を叩き込んだ。
「……グァ……ッ!」
電撃を食らったように、その場に崩れ落ちる巨体。
ユキは易々と上から押さえつけた。
フウ、フウ、と全身ポンプのように粗い呼吸を繰り返すサンコン。
「落ち着け」
ユキはその平坦な声で、息を整えさせた。
「………」
私はその光景を。
色のない映画のスクリーンを見ている感覚で、呆然と見つめていた。
一度、二度。
ゆっくりと瞬きをした。
目を開いても、景色が変わることはない。
誰とも目が合わないまま。
野間に手を引かれ、AnBarを後にした。


