「………」
野間はだらりと垂れた私の手首を掴み、グイと引いた。
「では、お邪魔しました」
踵を返し、歩きだそうとしたとき。
「一つ、聞いていいか?」
背後から、ユキの声がした。
背筋を、冷たい水がつーっと伝っていく。
「なんすか?」
野間が足を止め、ゆっくりと振り返る。
「シトウの紫藤は、女一人の面倒も見れないほど、甲斐性がないのか?」
「うーん。まぁ、言いたいことはわかるっすよ。僕も、カナコさんはシトウに置いた方がいいと思ってるんです」
「………」
「でもね、物事には順序ってモンがありますから。外野がとやかく言うのは野暮ってモンですし、それに──」
野間の口元から、ふっと笑みが剥がれ落ちた。
声が、低く歪む。
「……シトウにも入れねぇド底辺野郎が。生意気言ってんじゃねぇぞ」
──バキッ!!
骨の砕けるような音が、店内に響いた。


