「かぁこ」
返事はない。わかっているのに。
このたった三文字を、何度でも呼びたくなった。
なんで……
こんなにも胸が苦しいのに、俺は何を求めているんだろう。
傷ついてほしくなかった、守りたかった。
それだけだ。
俺には力がない、相応しくない。
……それだけの話だ。
なのに、どうしてこんなにも納得ができない?
ユキは目を落とした。
傷つき、深く目を閉じるカナコの頬に、そっと手を当てる。
「……許せない」
口が、ひとりでにそう呟いた。
その声に応えるように、心臓がドクンと跳ねる。
異常な熱が、胸の奥を焼く。
それは瞬く間にぐつぐつと煮立ち、ユキの中から吹き零れた。
濁流となった熱い感情が、冷たい理屈を跡形もなく吞み込んでいく。
――許せない。……許せるわけが、ない。
ユキの中で、何かが何かが崩れた。


