余所者-よそもの-【 2 】



「……違う」

「はあ?」


「違うって……言おうと思った。でも、イラついて言えなかった」

「イラついたって、誰にだよ」


「かぁこ……」


ぽつりと呟かれた、彼女の三文字の名前。

いつの間にかつけられていた、ユキ専用のあだ名。


「なんでカナコちゃんにイラつくんだよ」


「紫藤のところに行くから」

「……紫藤?」


俺が尋ねれば、ユキは掻き上げた前髪をぐちゃぐちゃと掻き回す。

それは多分、頭の中の状態とイコール。


「紫藤がかぁこを欲しがってる。……そういう関係なのかもしれない」


ユキの声は、今にも泣きだしそうなほど弱々しい。


何年振りだろう。
それは、コタコ以来聞いたことがなかった、悩みに悩みぬいた声だった。

──『テストで点数が取れなくなった。学校に来れなくなった。多分、コタコは困ってるんだと思う』


「俺……おかしい。もう、ずっと変なんだ」

「どう変なんだ」


「かぁこの前だと、いつもの自分でいられなくなる。イラつくし、頭は回らないし、ずっと何かに焦ってる」

「何に焦る?」


「わからない。どうしたいのか、何がしたいのか。一向に解決しないんだ。だから考えたくない。なのに、アイツのことが頭から離れない」

「………」


「会いたくないって思うのに、身体が会いたがる」

「………」


「頭と身体が、俺の意志とは関係なく勝手に動く。ずっと支離滅裂で、俺の中がバラバラだ……」


ユキは長年、感情を自分には不要なものとして生きてきた。

それが突然。
自分の意思よりも、感情が先に動き始めたら、どうなるか。


──『さっきからずっと考えてる。でも、わからない』

──『なんで、この身体が勝手に動いたのか』


ユキにとっては深刻なバグ。
頭がおかしくなった状態。

たぶん、本人はそうとしか説明ができない。