案の定、ドカドカとこちらへ詰め寄ってきたユキ。
俺の手から、電子タバコをひったくった。
「いい加減にしろよ」
「なんでカナコちゃんが傷ついてるか。誰のせいって、しいて言うならお前だよ、ユキ」
俺は乱暴に電子タバコを取り返し、凄んでやる。
「俺がAnBarに行ったら、カナコちゃんは殴られて鼻から血吹いたまま、更衣室に閉じ込められてた」
「………」
「熱もあったし、部屋で寝かせてやろうと思ったら、そこは生ゴミがブチ撒かれてた」
「………」
「イジメまがいなことは、たぶん今に始まったことじゃない。やったのはバンだ。サンコンに至っては見て見ぬふり。お前のためだって言ってたぞ」
俺はソファに座ったまま、目の前に立つユキの胸倉を掴み、ぐっと引き寄せた。
怒りと、焦りと、疑念と。
そんな様々な感情がジャムった、コイツの瞳。
滾りに滾った俺の瞳を、コイツの瞳に。
挑発するように、至近距離でぶつけてやる。
不細工で、非合理的な感情が、瞳の中で膨れ上がる。
……さっさと出て来い。
さっさと、こっちに来い。
「なあ、お前の店どうなってんだよ。AnBarはカナコちゃんの自宅兼職場。逃げ場なんてどこにもない」
「………」
「ましてお前は『AnBarから出て行け』って言ったらしいな?」
「違う……」
「何がだよ」
「……俺は言ってないっ!!」
ユキは俺の胸倉を掴み返した。
「サンコンが伝言をミスったんだ!俺は『フロアから出てろ』って、2階に控えてろって意味で言ったのにっ!」
「じゃあなんだ?お前、カナコちゃんに間違って伝わったこと、わかってたのか?」
「わかってたさ!」
「だったら尚更なんでだよ。なんで、すぐに誤解を解いてやらない?」
「それはっ」
「カナコちゃんはあの状態で、誰にも助けを呼べず、ただ一人でじっと耐えてた」
「………」
「お前に出て行けって言われたからって、お前に合わせる顔がねぇって、今日のこともお前に絶対言うなって」
「……っ」
「誰がカナコちゃんを傷つけたかだと?そんなもん、お前以外に誰がいるんだよっ!」
一言一言、叩きつけた言葉。
ユキは食らうたび、手の力をじわじわ緩め、最後はすっかり力を失った。
頃合いを見計らい、胸倉を突き放す。
ユキはよろめき、ローテーブルに足をぶつけながら後ろへ倒れた。
ドサリと床にケツをつき、そのまま頭を抱えて、がくりと項垂れた。


