──ガチャ……。
静かに寝室のドアノブを捻り、扉を開けば。
すぐ前に立っている、ユキ。
忙しなく上下する、肩。
乱れたヘアセット。
よほど急いだらしい。
ユキは俺を見るなり、顔をしかめた。
肩を押しのけ、強引に身体を滑り込ませようとする。
「………」
「退けよ」
通せんぼする俺に、ユキは苛立った目を向けてくる。
俺はピンと立てた人差し指を、口の前に添えた。
「今やっと寝たとこだ」
声をひそめて言うと、ユキはぐっと唇を噛み締める。
静かになったことを確かめてから、ユキを寝室へと通してやった。
「………」
ユキは固く口を結んだまま。
ベッドに横たわるカナコちゃんを見下ろした。
熱に浮かされ、赤らんだ顔。
息苦しそうに寄せられた眉。
薄く開いた唇から零れる、熱っぽい吐息。
鼻の下から頬のラインに走る、擦れた血の跡。
顔の両脇に添えられた小さな両手には、点々と肉が抉れた傷がある。
乱暴に破かれたシャツに、開かれた胸元。
その白い鎖骨から胸の谷間にかけて留まり固まった、赤黒い血。
ユキの大きな猫目が、見開かれた。
そして、みるみるつり上がっていく。
俺はユキの強張った肩に、ちょんちょん、と触れた。
ギチギチと、ぎこちない視線がこちらを向く。
「あっちで話そう」
リビングの方向を指さし、促した。
ユキはもう一度カナコちゃんを見つめたあと。
名残惜しそうに視線を剥がし、黙って俺についてきた。


