「………」
汗の浮かぶ、カナコちゃんの額。
その真ん中にある大きな傷跡を眺めながら、ふと思う。
この子はとても不思議だ。
一見、死にたがりかと思うほど、傷を負うことに躊躇いがない。
でも、どうしてか。
これまで出会った誰より、カナコちゃんは人間臭かった。
生のスレスレを、死に狂いで生きてる感じがする。
自分が生きることで手一杯なくせして、それでも他人に手を差し伸べる。
まるで、自分の命をちぎって誰かに分け与えることで、自分自身も生き延びているような。
そんな血生臭い何かに、常に覆われている。
この血生臭さの正体は、きっと優しさだ。
カナコちゃんの行き過ぎた『思いやり』や『気遣い』は、自分以外の誰かに見返りを求めることをしない。
そういうものを、ユキはずっと理解できなかった。
──『何度も読んだんだ。この本の内容はわかるのに、肝心なところがわからない』
──『前に潤ちゃんが言った『思いやり』と『気遣い』。俺がどうすれば、コタコがまた笑ってくれるのかが、どうもわからない』
……いや。
コタコの死とともに、その答えを探すことをやめてしまった。
──『……コタコは、最も効率的な生き方を選んだんだね』
ユキは、社会人になってからも全てを論理で処理した。
店の経営も、人間関係も。
わかりやすい損得勘定と、利害関係で成り立たせ。
必要以上に、人に求めない。
必要以上に、人と関わらない。
失っても傷つかない。
ある意味、器用な生き方。
そんなユキの調子を狂わせたのが、カナコちゃんだ。
──『お前……ッ!!Z地区にいるのか!!』
俺が知る限り。
ユキが怒りを露わにしたのは、Z地区でのあの出来事が初めて。
さて、そうなると。
──『アイツ、紫藤とデキてんだぞ!!』
──『AnBarを出て行けって、言われました』
ここに、どんな感情が隠れているのか。
もし、俺の予想が当たっているのなら。
これはちょっと、面白いことになってる。


