余所者-よそもの-【 2 】



ユキは俺の言葉に、少しだけ首を傾けた。

そして、綺麗に微笑んだ。


「いいよ」


そのときだった。

「グオオオオオオオ……!」


──バンッ!

屋上の扉を勢いよく開け、サンコンが飛び込んできた。

ドスドスと足音を響かせて、俺とユキの間に割って入る。


「ワイも行ぐ!!」

いつから話を聞いていたのか。
どうやらコイツも、糸冬町についてくるつもりらしい。


「駄目」


一蹴したユキ。

サンコンは必死の形相で食い下がる。


「なぜじゃあ!!」

「サンコンの食いぶちが浮かばない」


たしかに。
コイツ、まともに働けるのか?


「な、なんでもする!!」

「それに喋り方が嫌だ」

「直ず……!!」


ユキはふっと小さく笑うと、屋上に放置された古い学習机に手を伸ばした。

その引き出しから、一冊の本を取り出す。


「前から渡そうと思ってた」

ユキが差し出したその本は、サンコンのクリームパンみたいな大きな手の中にちょこんと収まった。

俺は横から、その本のタイトルを覗き見た。


『メリー様の執事』

……なんだこれ。


サンコンから取り上げて、パラパラと目を滑らせた。

中は文字が少なめで、比較的読みやすそうな文庫本。


「ギャグ小説か?こんなの読ませて何の意味があるんだ?」

「その主人公の固すぎない敬語がちょうどいい」


ユキはそう言って、サンコンを見る。


「こんな風に接してくれれば、お前の食いぶちくらいは俺が用意してやる」


サンコンは俺の手から力任せにその本を奪い返すと、さっそくその場で読み始めたのだった。