ユキは俺の言葉に、少しだけ首を傾けた。
そして、綺麗に微笑んだ。
「いいよ」
そのときだった。
「グオオオオオオオ……!」
──バンッ!
屋上の扉を勢いよく開け、サンコンが飛び込んできた。
ドスドスと足音を響かせて、俺とユキの間に割って入る。
「ワイも行ぐ!!」
いつから話を聞いていたのか。
どうやらコイツも、糸冬町についてくるつもりらしい。
「駄目」
一蹴したユキ。
サンコンは必死の形相で食い下がる。
「なぜじゃあ!!」
「サンコンの食いぶちが浮かばない」
たしかに。
コイツ、まともに働けるのか?
「な、なんでもする!!」
「それに喋り方が嫌だ」
「直ず……!!」
ユキはふっと小さく笑うと、屋上に放置された古い学習机に手を伸ばした。
その引き出しから、一冊の本を取り出す。
「前から渡そうと思ってた」
ユキが差し出したその本は、サンコンのクリームパンみたいな大きな手の中にちょこんと収まった。
俺は横から、その本のタイトルを覗き見た。
『メリー様の執事』
……なんだこれ。
サンコンから取り上げて、パラパラと目を滑らせた。
中は文字が少なめで、比較的読みやすそうな文庫本。
「ギャグ小説か?こんなの読ませて何の意味があるんだ?」
「その主人公の固すぎない敬語がちょうどいい」
ユキはそう言って、サンコンを見る。
「こんな風に接してくれれば、お前の食いぶちくらいは俺が用意してやる」
サンコンは俺の手から力任せにその本を奪い返すと、さっそくその場で読み始めたのだった。


