「ユキくん」
もっさりメガネは、コンクリートの上で背筋をピンと伸ばして正座をしていた。
その顔は茹で上がったタコのように真っ赤。
「ユキくん、ユキくん」
「……ユキって、もしかして俺のこと?」
「エヘヘヘヘヘヘ」
ヨダレが垂れそうなほど口元を緩めて笑う、気持ち悪いコイツ。
瑞生はパソコンの上で動いていた手をピタリと止めて、じっと見つめた。
「なんでわざわざ、呼び方変えた?」
「友達だからさ!」
「なんで友達だと呼び方が変わる?」
「親しみの証なんだって!」
胸を張ったコイツは、バッグから一冊の本を取り出した。
「じゃじゃーん!」
見せびらかしてくるそれは、藍色の分厚いハードカバー。
なんかの論文集か?
表紙に書かれたタイトルは、
──『社会的動機づけとしての「友情」』。
俺は指をさして尋ねた。
「なんだ?それ」
「僕は今、友達ってものがどういうものなのかを学んでいるんだ」
「は?」
友達の定義をわざわざ本で勉強するヤツがどこにいるんだよ。
「僕……初めてなんだぁ。友達ができたの……」
瑞生が、不思議そうな顔で尋ねる。
「友達なの?俺たち」
「え……。そ、そうだよ!」
「友達って、具体的にどういうの?」
「ええっと……なんていうか、僕もまだ言語化できてないんだけど」
「うん」
「きっと、こういうのなんだと思う!」
空に声を放つように言ったコイツは、短い両手をめいっぱい広げてみせた。
俺と瑞生。
そして自分自身が並んで座っているこの屋上の空間。
その全てを包み込むように。
さわさわと、屋上に吹き込んだ柔らかな秋風。
胸の奥が、少しだけむず痒い感じがした。
「こういう関係をね、『友達』って言うんだよ」


