余所者-よそもの-【 2 】



「ユキくん」

もっさりメガネは、コンクリートの上で背筋をピンと伸ばして正座をしていた。

その顔は茹で上がったタコのように真っ赤。


「ユキくん、ユキくん」

「……ユキって、もしかして俺のこと?」

「エヘヘヘヘヘヘ」


ヨダレが垂れそうなほど口元を緩めて笑う、気持ち悪いコイツ。

瑞生はパソコンの上で動いていた手をピタリと止めて、じっと見つめた。


「なんでわざわざ、呼び方変えた?」

「友達だからさ!」

「なんで友達だと呼び方が変わる?」

「親しみの証なんだって!」


胸を張ったコイツは、バッグから一冊の本を取り出した。


「じゃじゃーん!」

見せびらかしてくるそれは、藍色の分厚いハードカバー。

なんかの論文集か?


表紙に書かれたタイトルは、

──『社会的動機づけとしての「友情」』。


俺は指をさして尋ねた。

「なんだ?それ」


「僕は今、友達ってものがどういうものなのかを学んでいるんだ」


「は?」

友達の定義をわざわざ本で勉強するヤツがどこにいるんだよ。


「僕……初めてなんだぁ。友達ができたの……」


瑞生が、不思議そうな顔で尋ねる。


「友達なの?俺たち」

「え……。そ、そうだよ!」


「友達って、具体的にどういうの?」

「ええっと……なんていうか、僕もまだ言語化できてないんだけど」

「うん」


「きっと、こういうのなんだと思う!」


空に声を放つように言ったコイツは、短い両手をめいっぱい広げてみせた。


俺と瑞生。
そして自分自身が並んで座っているこの屋上の空間。
その全てを包み込むように。


さわさわと、屋上に吹き込んだ柔らかな秋風。

胸の奥が、少しだけむず痒い感じがした。



「こういう関係をね、『友達』って言うんだよ」