「知らねぇ?有名だぜ、隣町の飯田千(イイタチ)高校。名前さえ書けりゃ通るってレベルの男子校」
「しらない」
「あいつらが『イタチ』って呼ばれてるのに対して、俺らは『カモ』って呼ばれてる」
「なぜ?」
「進学校はボッチャン率が高いからな。まぁ実際、カモられてんのはコイツだけじゃねーよ。クラスに何人かいるんじゃね?イタチにカモられてるヤツ」
俺がそこまで話すと、もっさりメガネはすっかり泣き止んでいた。
その表情はもう、憑き物が落ちたように晴れ晴れとしている。
「でもでもっ瑞生くんと潤くんのおかげで助かったよ!うんっ、これで助かった!もう安心だー!」
ワハハハ!と能天気に笑いだすコイツ。
俺は現実ってモンを教えてやろうと思う。
「終わらねぇよ。こういうのは終わりがねぇ。あいつら暇なんだ。ボコられたのが悔しくて、次は勝てる人数で来るぞ」
「そん……な……」
途端、もっさりメガネの顔は絶望一色になった。
さて。
これからどうすっかな。
手ぇ出したモンは引っ込みつかないし。
なるようにしかならねーよなぁ……。
ふと、隣から視線を感じた。
見れば、瑞生が俺のことを瞬きもせずに見つめていた。
その瞳は、出会って初めて。
俺を正面から映した気がする。
「………」
まるで、何か面白いものを見つけた子供みたいに。
瑞生の瞳の奥が、微かに光ったように見えた。


