「ねぇ、潤くん」
空になった弁当箱を片付けながらの呼びかけに「なんだ?」と目尻を下げた。
「”瑞生”って人、知ってる?」
「……もちろん」
「私、同じクラスなんだけど、ほとんど授業受けてないんだよね」
あーあ。
気分が台無しだ。
隣に俺という男がいるにも関わらず、別の男の話題。
しかも、また瑞生。
俺と会う女の子は、やたらとソイツの名前を口にする。
おかげで、その名前を聞くたびにガッツリ気分が下がった。
────『瑞生』
俺よりも多く、女の子の視線を集める男。
「授業受けてないのに、なんでいつもテストで満点取れるんだろう?」
そう。
掲示板に貼り出される成績順位。
そのトップは、いつも瑞生だ。
でも、注目を集める理由は単に頭が良いってだけじゃない。
ソイツは、見た目からして浮世離れしている。
色素の薄い髪や肌。
透けて見えそうなくらいに儚い見た目。
性別の境界すら曖昧にするほどの美貌を持ちながら、誰も逆らえないような風格すらある。
加えて超天才児ときたもんだ。
容姿も頭脳も、全てを兼ね備える男。
なんつーか、ズルいだろ。
俺なんか、髪を染めてピアスを開けてチャラチャラと制服を着崩して。
やっと注目を浴びることが出来た。
俺、ちょっといい男なんじゃね?って。
そんな自信まで持ち始めてたってのに。
世の中どこにいっても、上には上が居るもんだ。
「潤くんは瑞生くんと話したことある?」
「ないない」
「だよね」
俺と瑞生の接点なんて、一ミリもない。
クラスも違えば、話す理由もなかった。
それにこれは有名な話。
人離れした瑞生に漂う、”なんか話しかけ辛いオーラ”はきっと校内共通の認識。
孤高を望んでいるのか、なんなのか。
『瑞生くんに話しかけたけど、無視された』
『瑞生くんは誰とも話さない』
こんなウワサが蔓延して、それが事実だと裏付けるように瑞生はいつも一人だった。
俺だって、わざわざ話しかけようとは思わなかった。


